ピペットチップとは?マイクロピペットでの使い方、滅菌の有無、主な種類を解説

研究や検査では、ごく少量の液体を正確に量り取るために「マイクロピペット」という器具が使われます。ピペットチップは、そのマイクロピペットの先端に取り付ける、 細長い使い捨て部品 です。
イメージとしては、液体を吸い取る器具の先端に付ける「交換式のノズル」に近いものです。液体はピペットチップの中に入り、使用後はチップだけを取り外して交換します。
ピペットチップは同じような形に見えますが、容量、長さ、フィルターの有無、滅菌状態などによって種類が分かれています。また、同じ容量のチップでも、 すべてのマイクロピペットに取り付けられるとは限りません。
この記事では、ピペットチップの役割や基本的な使い方、滅菌済みと未滅菌の違い、主な種類、使用前に確認したいポイントについて紹介します。
この記事の要点
- ピペットチップは、マイクロピペットの先端に取り付ける使い捨ての消耗品です。
- 異なる試料や試薬を扱うときは、基本的に新しいチップへ交換します。
- 滅菌済みと未滅菌は、実験内容や必要な清浄度に合わせて使い分けます。
- 滅菌済みとRNase・DNaseフリーは、確認する内容が異なります。
- ピペットチップは、容量、長さ、フィルター、先端形状などによって種類が分かれます。
- 容量だけでなく、マイクロピペットとの適合、品質表示、包装形態も確認しましょう。
ピペットチップとは
ピペットチップとは、マイクロピペットの先端に取り付け、少量の液体を吸い取って別の容器へ移すための部品です。
多くのピペットチップは、透明または色付きのポリプロピレンで作られています。細長い円すい形をしており、先端の細い部分から液体を吸い取ります。
ピペットチップを交換することで、マイクロピペット本体をそのまま使いながら、異なる試料や試薬を扱えます。
使用済みのチップには、目に見えなくても前に扱った液体が残っている可能性があります。そのまま別の試料に使用すると、液体同士が混ざり、実験結果に影響する場合があります。そのため、ピペットチップは 基本的に使い捨ての消耗品 として使用します。
ピペットチップの使い方

ピペットチップは、ラックに並んだ状態からマイクロピペットに取り付けるのが一般的です。
ラックとは、ピペットチップを1本ずつ立てて並べておくための容器です。チップを手でつままずに取り付けられるため、先端や内側へ触れるのを避けやすくなります。
ここでは、ピペットチップの取り付けから取り外しまでの基本的な流れを説明します。
実際に使用するときは、マイクロピペットの取扱説明書や、研究室・施設内の手順を優先してください。
①容量の合うピペットチップを用意する
最初に、マイクロピペットとピペットチップの対応容量を確認します。
ピペットチップには、10µL、200µL、1000µL用などがあります。µLは「マイクロリットル」と読み、1mLの1000分の1を表す単位です。
ただし、容量が同じであっても、取り付け部分の形状が合わない場合があります。マイクロピペットの
メーカー、型式、容量範囲
を確認し、対応するチップを用意します。[1]
②ラックからピペットチップを取り付ける
ラックのふたを開け、マイクロピペットの先端をチップの上からまっすぐ差し込みます。
手でチップをつまんで取り付けるのではなく、ラックに並んだ状態から直接取り付けることで、
チップの先端や内側に触れずに扱えます。
取り付けた後は、次の点を確認します。
- チップが斜めになっていないか
- マイクロピペットとの間に隙間がないか
- チップにぐらつきがないか
チップが緩いと、隙間から空気が入り、設定した量を正しく吸い取れない可能性があります。
反対に、必要以上に強く押し込むと、使用後にチップを取り外しにくくなることがあります。無理に力を加えず、確実に取り付けます。[1]
③液体を吸引して別の容器へ移す
ピペットチップを取り付けたら、マイクロピペットのボタンを操作して液体を吸い取ります。
吸い取るときは、
ピペットをできるだけまっすぐに持ち
、チップの先端を液体へ入れます。先端を必要以上に深く入れたり、ピペットを大きく傾けたりすると、チップの外側に液体が付着することがあります。[1][2]
液体を吸い取った後は、移し先の容器へチップの先端を移し、マイクロピペットのボタンを押して液体を出します。
ボタンの押し方や液体を吸い取る速度は、マイクロピペットの種類によって異なります。初めて使用する場合は、取扱説明書や施設内の手順を確認してください。
④使用済みのチップを取り外す
液体を移し終えたら、マイクロピペットのチップ取り外しボタンを押し、使用済みチップを廃棄容器へ落とします。
使用後のチップには、試料や試薬が付着している可能性があります。手で直接取り外さず、扱った試料や施設内のルールに従って廃棄します。
ピペットチップを交換するタイミング
ピペットチップは、
異なる試料や試薬を扱うときに交換
します。
前に扱った液体がチップ内に残っていると、次の液体へ混ざる可能性があるためです。
次のような場合も、新しいチップへ交換します。
- 別の試料を扱うとき
- 異なる試薬へチップを入れるとき
- チップが作業台や容器の外側に触れたとき
- チップの外側に液体が付着したとき
- チップに変形、ひび割れ、汚れが見られるとき
- 液体同士の混入を特に避けたい作業を行うとき
同じ液体を続けて分ける場合など、作業内容によって交換のタイミングは異なります。実験手順や施設内のルールに従って判断してください。
滅菌済みと未滅菌のピペットチップの違い
ピペットチップには、あらかじめ滅菌処理された「滅菌済み」と、滅菌処理されていない「未滅菌」があります。
滅菌済みのチップが、すべての作業で必要とは限りません。
微生物の混入を避ける必要があるかどうかなど、実験内容に合わせて使い分けます。
滅菌済みピペットチップ
滅菌済みピペットチップは、製造後に決められた方法で滅菌処理された製品です。
多くは、ふた付きラックや個包装など、未開封時の状態を保ちやすい形で包装されています。 未開封時に滅菌性が保証された製品は、通常は追加滅菌せずに使用できます。
細胞培養など無菌操作が必要な作業では、滅菌済みチップが一般的です。ただし、開封後に無菌性を保てるかどうかは、取り扱い方法や使用環境に左右されます。
滅菌済みの製品でも、開封後に手で触れたり、ラックのふたを長時間開けたままにしたりすると、無菌性が損なわれる可能性があります。 そのため、滅菌済みであることだけでなく、 開封後の取り扱いにも注意が必要 です。
未滅菌ピペットチップ
未滅菌ピペットチップは、あらかじめ滅菌処理されていない製品です。
滅菌が求められない作業では、未滅菌のチップが使用されることがあります。「未滅菌」と表示されていても、 使用前に必ず滅菌処理を行うわけではありません。 滅菌が必要かどうかは、扱う試料や作業内容、施設内の手順によって決まります。
未滅菌品でも、オートクレーブに対応した製品であれば、使用前に滅菌できる場合があります。ただし、すべてのチップやラックが対応しているわけではありません。処理する場合は、 チップ、ラック、ふたの対応状況 と、メーカーが指定する温度や時間を確認してください。
滅菌済みと未滅菌の使い分け
滅菌の有無は、次のように実験内容に合わせて判断します。
| 使用場面 | チップを選ぶ際の考え方 |
|---|---|
| 一般的な試薬や水溶液の分注 | 作業手順に応じて、未滅菌または滅菌済みを使用 |
| 細胞培養などの無菌操作 | 滅菌済みであることを確認 |
| DNAやRNAを扱う作業 | 必要に応じて、RNase・DNase・DNAフリーなどの品質表示や、 PCR阻害物質の管理表示を確認 |
| ピペット本体を介した試料の混入を抑えたい作業 | フィルター付きチップも検討 |
| 粘り気があり、チップ内に残りやすい液体 | 液残りを抑えたタイプも検討 |
実際の作業では、使用する試薬の説明書や施設内のルールを優先してください。
滅菌済みとRNase・DNaseフリーは確認する内容が異なる
ピペットチップには、滅菌の有無とは別に、RNaseフリーやDNaseフリーなどの品質表示があります。
「滅菌済み」は、製品に滅菌処理が行われていることを示します。一方、RNase・DNaseフリーは、RNaseやDNaseの混入が、製品ごとの基準で管理・確認されていることを示す品質表示です。具体的な検査方法や基準は製品によって異なります。
滅菌済みであることと、RNaseフリーであることは別の確認項目 です。また、オートクレーブ処理の有無だけでは、RNase・DNaseフリーを保証できません。RNA/DNA を扱う作業では、滅菌の有無とは別に、RNase・DNaseフリーなどの品質表示や試験保証を確認してください。[3]
ピペットチップの主な種類

ピペットチップは、容量のほか、長さ、先端の形状、フィルター、液体の残りにくさなどによって分けられます。
容量による違い
ピペットチップには、10µL、200µL、1000µL用など、さまざまな容量があります。
使用する際は、移したい液量だけでなく、マイクロピペット本体の容量にも合わせる必要があります。
製品によっては容量識別のために色分けされていますが、色の体系はメーカーやシリーズによって異なるため、
容量表示と適合表を必ず確認
してください。
標準タイプ
標準タイプは、一般的な試薬や水溶液を扱うときに使用される基本的な形状です。
マイクロチューブや小型のプレートなど、一般的な実験用容器で幅広く使用されます。
容量や包装形態の選択肢も多いため、通常の分注作業では標準タイプが使われることが多くあります。
ロングタイプ
ロングタイプは、標準タイプよりも長く作られたピペットチップです。
深いチューブや試薬ボトルなど、標準タイプでは底まで届きにくい容器から液体を吸い取る場合に使用します。
チップが長いため、マイクロピペット本体の先端部分が、容器の内側へ触れるのを避けやすい点も特徴です。
フィルター付きタイプ
フィルター付きタイプは、チップの上部にフィルターが入っている製品です。吸引時に発生するエアロゾルなどが、
マイクロピペット本体側へ入り込むのを抑えます。
PCRなど、ピペット本体を介した試料の混入が結果へ影響しやすい作業で使用されます。ただし、すべての分注作業で必要なわけではなく、扱う試料や実験内容に合わせて使い分けます。[3]
液体が残りにくいタイプ
液体が残りにくいタイプは、
チップの内側に液体が付着しにくい
ように作られた製品です。
粘り気のある液体や、チップの内側に残りやすい試薬を扱う場合に使用されます。チップ内に残る液体を抑えることで、試料の無駄を減らしやすくなります。
製品によっては、「低残留」「ローリテンション」などと表記されています。「低吸着」と表記される製品もありますが、対象となる試料や性能は製品によって異なるため、仕様を確認してください。
先端が広いタイプ
先端が広いタイプは、通常のチップよりも
液体が出入りする穴が大きく
作られています。
粘り気のある液体や、細胞などを含む試料を扱う場合に使用されます。細い先端を通すことによる試料への負担を抑えたい場合にも選ばれます。
製品名では「ワイドボア」と表記されることがあります。
ピペットチップの包装形態とラックへの補充方法

ピペットチップの主な包装形態
ピペットチップには、チップがラックに整列した状態で販売される 「ラック入り」 や、多数のチップが袋にまとめて入った 「バルク包装」 などがあります。このほか、必要な本数だけ開封しやすい個包装の製品もあります。
ラック入りは、マイクロピペットを上から差し込んでそのままチップを装着しやすい包装です。一方、バルク包装はチップが袋にまとめて入っているため、必要に応じて別のラックへ並べて使用します。
空になったラックへの補充方法
空になったラックを再利用する場合は、袋入りのチップを1本ずつ並べる方法と、専用のリフィルを使う方法があります。リフィルは、チップがあらかじめ整列した状態の詰め替え用製品です。対応するラックへまとめて移せるため、袋入りのチップを1本ずつ並べるよりも補充の手間を減らせます。
ただし、同じ容量のチップでも、 すべてのラックやリフィルを組み合わせられるとは限りません。 補充する場合は、チップとラックの適合性を確認します。また、補充後にオートクレーブする場合は、チップだけでなく、ラックやふたも処理に対応しているか確認が必要です。
ピペットチップを使用する前に確認したいポイント
ピペットチップを準備するときは、 容量だけで選ばず、マイクロピペット本体や実験内容との組み合わせを確認 します。
マイクロピペットに適合するか
ピペットチップを使用する前に、マイクロピペット本体へ正しく取り付けられるかを確認します。
複数メーカーのピペットに使用できるチップもありますが、すべてのマイクロピペットに合うとは限りません。
チップが緩いと隙間から空気が入り、設定した量を正しく吸い取れない可能性があります。反対に、きつすぎると、取り付けや取り外しに余計な力が必要になります。
使用するマイクロピペットのメーカー、型式、容量範囲と、チップの対応情報を確認してください。[1]
扱う液量に合っているか
ピペットチップは、扱う液量に合うものを使用します。同じような形に見えても、微量用と大容量用では、チップの長さや先端の穴の大きさが異なります。
マイクロピペット本体とピペットチップの両方が、移したい液量に対応しているか確認してください。
実験内容に合った種類か
一般的な液体には標準タイプ、深い容器にはロングタイプ、液体の混入を特に避けたい場合にはフィルター付きなど、作業内容によって適したチップが異なります。
作業内容に合う製品を選ぶため、次の点も確認します。
- 滅菌済みか未滅菌か
- フィルターが付いているか
- RNase・DNaseフリーなどの品質表示
- 液体が残りにくい仕様か
- 先端の長さや広さ
- オートクレーブに対応しているか
包装形態が使用環境に合っているか
すぐに使用したい場合や、チップへ直接触れずに取り付けたい場合は、ラック入りが扱いやすいでしょう。
大量に使用する場合は、バルクやリフィルも選択肢になります。
空になったラックを再利用する場合は、補充するチップとの適合や、ラックをオートクレーブできるかも確認してください。
ピペットチップをお探しの方へ
ピペットチップをお探しの方は、ビットストロングの製品ページもご参照ください。
取扱容量や包装単位、在庫状況などをご覧いただけます。
よくある質問
Q. ピペットチップは使い捨てですか?
ピペットチップは、基本的に使い捨てです。
使用済みのチップを別の試料に使用すると、前に扱った液体が混ざる可能性があります。また、洗浄や繰り返しの使用によってチップが変形すると、マイクロピペットとの密閉性に影響する場合があります。
Q. 未滅菌のピペットチップはオートクレーブが必要ですか?
すべての未滅菌チップに、オートクレーブが必要なわけではありません。滅菌が必要かどうかは、実験内容や施設内の手順によって異なります。処理する場合は、オートクレーブ対応製品を使用し、メーカーが指定する条件に従ってください。
Q. ピペットチップはラックごとオートクレーブできますか?
チップとラックの両方が対応していれば、ラックに入れた状態でオートクレーブできる製品があります。
ただし、チップだけが対応している場合や、ふた、トレー、外装が対応していない場合もあります。製品ごとの仕様を確認してください。
Q. 空になったラックへ新しいチップを補充できますか?
対応するバルクチップや専用リフィルがあれば、空のラックへ補充できます。
ただし、同じ容量のチップでも、ラックの穴やチップの形状が合わないことがあります。ラックとチップの対応を確認してから使用してください。
Q. 他社製のピペットチップも使用できますか?
複数メーカーのマイクロピペットに対応した、汎用タイプのチップもあります。
ただし、取り付けられることと、十分に密閉されて正しく液体を量り取れることは同じではありません。
使用するマイクロピペットの型式と、ピペットチップの対応情報を確認してください。
参考資料・出典
[1]日本分析化学会機関誌『ぶんせき』2020年4月号「前処理に必要な器具や装置の正しい使用法/マイクロピペット」
[2] 北海道大学 LASBOS Moodle「ピペットの使い方(正しく使うコツ)」
[3]日本遺伝子診療学会「はじめて新型コロナウイルス検査を行う方のために」
まとめ
ピペットチップは、マイクロピペットの先端に取り付け、少量の液体を吸い取って別の容器へ移すための消耗品です。
異なる試料や試薬を扱うときは、新しいチップへ交換することで、液体同士が混ざるのを防ぎやすくなります。
ピペットチップには、滅菌済みと未滅菌のほか、標準、ロング、フィルター付き、液体が残りにくいタイプ、先端が広いタイプなどがあります。
使用前には、次の項目を確認しましょう。
- マイクロピペット本体との適合
- 対応容量
- 滅菌の有無
- フィルターや先端形状
- RNase・DNaseフリーなどの品質表示
- ラック入りやバルク包装などの包装形態
見た目や容量だけで判断せず、 使用するマイクロピペットや実験内容に合ったピペットチップを選ぶことが大切 です。

